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記事の閲覧 - 店長が自分でする店舗診断(2005年11月号)
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売れるお店はここが違う - 店長が自分でする店舗診断(第6回)

著者プロフィール
角田誠(つのだまこと)
日本商業施設学会会員、商業施設士、商業施設活性化コンサルタント、一級建築士、(協)日本店装チェーン監事、(社)商業施設技術者・団体連合会関東甲信越支部副支部長
商業施設の企画、設計、施工などを多く手掛ける。ベーカリー百数十店の店づくりに携わる。「江東区魅力ある個店づくり」制度に派遣される。
株式会社第一店装代表取締役、武蔵工業大学卒業 http://www.dai1-t.com

第4章 什器及び陳列診断(前編)

■「陳列」こそ店長の腕のみせどころ
 前回までの「店外」診断及び「店内」診断では、集客力を増すために主としてハード(施設)面を取り上げました。
 今回は、「陳列」の診断です。売上のアップを図るために、商品のもつ魅力をアピールしながら、選びやすくする工夫をします。
 すでに来店されているお客様へのアピールですから、直接的な効果が狙えます。
 陳列の工夫は、ソフト面の改善ですので大きなコストを必要としません。「店長のやる気」さえあれば、あらゆる工夫が可能です。
 陳列の基本をマスターした上で、いろいろなアイデアを試してみることが大事です。「陳列」の工夫こそが、店長の腕のみせどころといえます。


図1 ゴールデンゾーン

■フェイス陳列
 商品は一番おいしく見える状態で、お客様に見ていただきましょう。すべてのパンにフェイスがあります。フェイスとは、パンの顔のことです。それぞれのパンの一番おいしく見える面を、一番おいしく見える角度でお客様に見ていただきます。そのことを「フェイス陳列」といいます。これは、商品を陳列する上で最も大事なことです。
 フェイスは、多くのデニッシュペストリーならば上面ですが、切売りのアップルパイならば砂糖煮したりんごが覗ける切り口もフェイスでしょう。角食パンならば正面、フランスパンならクープの入った面、サンドイッチは具のわかる切り口面というように、それぞれのパンのフェイスをお客様の視線に向けます。
 商品のすべてを一つ残らずフェイス陳列します。パンの上にパンを重ねる場合には、斜めに傾けながら置くようにしてフェイスをお客様に見ていただきます。
 ガラスサッシに面したパン棚では、外側商品のラインを外の歩行客に向けてフェイス陳列することも効果的です。
 「ゴールデンゾーン」という考え方があります。商品棚の中で、最も目に入りやすく手に取りやすい高さのことです。女性の場合は、床上70センチ〜140センチといわれます(図1)。
 しかし、パンのフェイスがどの面なのかを理解すると、商品によってゴールデンゾーンが違うことがわかります(写真1、写真2)。ペストリーなど上面にフェイスがある商品を視線近くの高い位置に陳列する場合、トレーは前に傾いていたほうが見やすくなります。トレーの下奥に枕木を置いて、トレー全体を前傾させることでフェイス陳列を可能にします。


写真1

写真2



?1 パンのフェイス面をお客様に向けているか。外側通路にフェイス陳列しているか。
?2 頻繁に前出し陳列を行っているか。
?3 焼きあがったすべてのパンがお客様に見えるように陳列しているか。
?4 商品の「歯抜け」はないか。特に店頭エリアの空きスペースはないか。
?5〜6 「おすすめ」商品の魅力をお客様に十分アピールできているか。
?7 「売れ筋」商品は目に留まりやすい場所かにあるか。関連した「売り筋」商品はその先に陳列されているか。
?8 ペストリーの陳列エリアは、分断したり散在したりしていないか。
?9 角食パンやバラエティブレッドの陳列は選びやすいか。
?10 圧縮陳列をしているか。閉店直前まで売り場に活気があるか。


■前出し陳列
 お客様がセルフトレーにパンを取られるにつれて、販売トレーには前の方から空きスペースが生まれます。すみやかにトレーの前の方にパンを移動させて最も見やすく取りやすい陳列を維持します。いわゆる「前出し陳列」です。
 そのときにフェイス陳列も確認します。お客様に選んでいただくパンに、売れ残りの印象を与えてはいけません。すべてのパンは、そのお客様に選んでいただくまで最高の状態でお待ちするのです。

■ボリューム陳列
 商品が店いっぱいにあるように見せる。たくさんあるように並べる。これが「ボリューム陳列」です。
 たくさん商品が並んでいるということは、その店の自信の表れです。お客様にとっても手を伸ばしやすいものです。だからといって、その日のうちにつくったパンを売り切ってしまわなければならないベーカリーにとって、必要以上の量を製造できるわけではありません。要は、少ない商品でも量感を演出するテクニックを駆使するのです。
 ボリューム感を出すためには、「目にできる商品」の量をふやすことです。そのためには、まず店内にある全ての商品をお客様から見えるようにします。前出し陳列や品出しをすみやかに行い空きスペースをなくします。
 特に、一番目立つ店頭の平台は、商品が少なくなってきた時点で、次のおすすめ商品と入れ替えるようにします。大きめの平台を使用しているならば、トレーの種類(素材、形)に変化をもたせたり、トレーの下に台を置くことで高さを変えて立体感を出したりすることで目に入るボリューム感を演出できます。
 食パンのように、正面から見る方が商品の顔がある商品は、奥壁面に縦方向に多段に並べることが有効です(第3回参照)。
 食パンを多段棚で並べるときは、見えにくい後ろの方を空洞にしても前に重ね置きすることですべての商品が見えるようにします。

■おすすめ商品の陳列
 パンのなかには、人気がある「売れ筋」商品があるはずです。また、お店として売りたい商品「売り筋」商品があります。
 例えば、カレーパン150円が売れ筋商品であり、次に野菜カレーパン180円を売り筋商品に設定したとします。この場合、まず売れ筋カレーパンを目に留まりやすい場所に置きます。そしてお客様の視線の先に、売り筋商品である野菜カレーパンを陳列します。そこで必ず150円のカレーパンとの違いをアピールします(「★有機野菜が5倍★春野菜がシャキシャキ」など)。
 このようにして、「売れ筋」と「売り筋」の商品は交互に陳列します。
 季節(フェア)商品や新商品などのその他のおすすめ商品についても、効果的な陳列にするため、トレーを増やすなどフェイスを多くします。そして、パンの断面をお客様に見せたり、試食を積極的に行ったりしてお客様にパンの魅力を訴えます。

■ペストリーの陳列
 店内診断のレイアウトの項目(第3回)でも触れたように、ペストリーは品揃えの多さをアピールします。
 そのなかで比較検討を楽しんでいただくためには、ペストリーの陳列は、途中で分断しないことが大事です。
 ペストリーゾーンを他の商品ゾーンや作業動線(厨房出入り口など)で分断してしまうと、後ろのゾーンは商品の動きが鈍くなる傾向があります。
 「ペストリーを分断しない」が陳列の基本です。

■食パンの陳列
 食パンのエリアは、一つのパン棚にまとめて陳列することでボリューム感が出ますし、お客様も選びやすくなります。この陳列の考え方を「縦割り陳列」といいます。
 パン棚最上段の手の届きにくい棚には、スライス前の放冷中の食パンを置くのも量感、焼きたて感を演出できます。
 また、多段ゴンドラの中段と下段にペストリーを並べ、上段すべてに横長く食パンを並べる陳列の方法があります。「横割り陳列」です。
 食パンを選ぶ場合、「横割り陳列」ですと、お客様が自分の欲しい食パンを見逃したり、棚の前を何度も往復したりすることもあり、買いにくい売り場になってしまいます。

■閉店1時間前の陳列
 消費者のライフスタイルの変化により、夜間の購買パターンが増えています。
 ひと昔前までのデパートは夜7時閉店でした。今では8時〜9時まで営業しています。大手スーパーも深夜営業や24時間営業を始めています。
 そこで売上アップのため、営業時間の延長を検討するのもよいのですが、まず「閉店1時間前」の売上アップを目指します。品薄になりかけてきた時間帯に、お客様に入店してお買い上げいただくには以下のことに気をつけてください。
 ○商品を入り口付近の棚や平台に圧縮してボリューム陳列する
 ○いつも以上に活気(声)を出す。
 ○片づけを優先させない(お客様は、歓迎されないと感じると買わない)
 ○厨房の照明は、製造作業が終了していても落とさない
 ○「ロス」が増えると予測されるなら、早い時間から試食を積極的に行う


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